director's voice

三上優司さん(津軽塗)

Q
青森から出展くださる三上優司さん、
工房からの風にはどのような作品を出してくださいますか?

A
お箸とお弁当箱、酒器を中心に、装身具も少々。
津軽塗のオーソドックスな技法を用いつつ、色合いをより優しく変えて塗りました。

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Q
三上さんにとって、工房からの風は、どんな風でしょうか?

A
終わってみないとわかりませんが、今感じるのは、朝霧の山から里へ吹く静かな風。
自分の心と体を起こし目覚めさせてくれているようです。

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Q
三上さん初めての「ものづくり」は、なんでしょう?
印象的なものをぜひ教えてください。

A
小学校の夏休みの工作で、角材を削ってペーパーナイフを作りました。
自分なりに綺麗だと思う曲線になるまで削り込んで、
だいぶ細くなってしまった記憶があります。
「美しいもの」というものをはじめて探った時かもしれません。

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この薄紫色の箸は、イナガキが愛用中のもの。
三上さんが朴訥と津軽塗のことを語ってくださった中で、
自作の箸への深い自信と、自らの仕事への愛情を感じて、
ぜひ使ってみたいと求めたものです。

20年ほど前、
青森出身の敬愛するこぎん刺しの作家の方から贈られた
津軽塗の箸があまりによくて、今でも愛用しています。

その作家の方は亡くなられたのですが、
今も箸を使うたびにその方のことを思います。

あまりによくて、と書きましたが、何がよいかと問われれば、
持った瞬間の頃合い、使うときの頃合い、と言ったらよいでしょうか。

重さだけではない、塗りの感触や、目に映る深み。
重ねて重ねて塗られているので、先がちびらないことも。
そう、長年使うほどに、作った方の丁寧な仕事にしみじみ感謝してしまいます。

愛用中のものは赤に唐塗(からぬり)でしたので、
三上さんのはピンクがかった薄紫に七々子塗(ななこぬり)のものを。
あまり身の回りにない色なので、どうかしら?と最初は思いましたけれど、
かえってアクセントになって、食卓が華やぎました。

唐塗や七々子塗については、
こちらに詳しく書かれています。
→ click

馬鹿丁寧過ぎるほどの下地処理と、塗っては乾かして研ぐことをひたすら繰り返すことで生み出される製品の馬鹿丈夫さから、「津軽の馬鹿塗り」とも呼ばれることもあります。
まさに[じょっぱり(意地っぱり)]と呼ばれる津軽気質の職人たちが魂を塗りこめた津軽塗は、高尚にして飽きのこない、堅牢で優美な漆器として好評を博しております。

という記載もありますよ。
(青森県漆器協同組合連合会HPより)

初夏のある日、青森から三上さんがgalleryらふとを訪ねて来られました。
日帰りの夜行バスを使って。
工房からの風への出展が決まり、
この出展に向けて精一杯仕事に向かっていらっしゃることが
しみじみ伝わってくる時間をいただきました。

津軽塗の先人が自分に伝えてくれたこと、
それを自分がどのようにして、今の時代にかたちと成すのか。
そして、どう次代につなげていくのか。
ひとり黙々と工房にこもって作られる仕事でありながら、
ひとりではない、世代を超えたたくさんの人々と共にある意識の中で、
三上さんのお仕事があることが伝わってきました。

それは、大変そうなことでもありましたが、
と同時になんて幸せなことなんだろう、とも思いました。
確たる故郷を持たない根無し草の自分にはない時と人の連なり。
もちろん、それを幸せにしているのは、三上さんの心なのですけれど。

今、漆器では下塗りで仕上げる無地のものが多く作られています。
その中で、津軽塗らしい表情がどのようにあるべきなのか。
三上さんの問いかけは続きます。

その問いかけに答えが返ってくるためにも、
まずは作り手自身の心に適うものを作ることなのでしょう。
それを示して、使い手がどのように応じてくれるか。
工房からの風で何か手ごたえに触れられるでしょうか。

お箸は、サイズ、色柄、種々に作られたとのこと。
箸の値段と思うと決して安価ではありませんが、
長く長く使えるもの、その使い心地のよさ、使う頻度を思うと、
決して高価ではないと思います。
その制作工程を思っても。
ぜひ、三上さんのブースで手にしてみてくださいね。

三上さんのブースは、スペイン階段前の大きなテントの一角です。