朽ち行くものの美と通じ

藤田永子

金工

空間に、暮らしに、親和性のあるものを
鍛える金と書いて、たんきん。
金属工芸の中の技法、分野のひとつです。
固いイメージの金属ですが、叩くことで思うようにかたちを作っていくものづくりは、
古代から続けられてきました。
金床などに金属をあてて、金槌で打つ。
固い金属に横たわる原子を、叩くことで動かして形を作る。
力と根気のいるものづくりに励む若き作り手が、藤田永子さんです。

藤田さんが多く手掛ける作品には、カトラリーや皿などがあります。
世の中で多く使われている金属の生活道具は機械で量産されたものが多い中、
あえてひとつひとつを手で作りあげていく仕事。
そこに至る迄のストーリーをうかがいました。

小学6年生の頃から美大に行きたいと思っていた藤田さん。
当初の漠然とデザインをしてみたいという気持ちから、高校生の頃には立体制作に関心が移っていきました。
そして、美術作品が非日常空間に置かれた白い展示台の上にあることよりも、内装など室内空間からつながる中にあることへ興味が高まっていったのです。
もともと生活の道具が好きだったことと、産地などで作られる金属の生活工藝品の存在を意識するようになってから、自らの手も動かしたいと思うようになりました。
 
大学ではオヴジェを制作する人たちと共に学びながらも、在学中からクラフトフェア巡りを積極的に行ってきたという藤田さん。
ものを作り、それを売って生活をする。
シンプルに思えたその制作スタイル、そしてライフスタイルに制作への考え方、生きていくことの考え方が広がったのでした。

人が生み出すエラーによる表情は、
自然界の朽ちゆくものの美に通じる

「鍛金は作品が出来上がるまで、手が離れることがないんです」
ひたすら叩くこと、熱すること、磨くこと。
寸法通りに作りあげる技術を学び、手を動かした分だけ生み出されていく制作ではありながら、藤田さんが惹かれるのは、その過程で生じる歪みや熔け跡、変色などの「エラー」とされる表情にあるといいます。
 
自然界の朽ちゆくもの、工業製品の錆びた破片、潮の流れや雨風などがもたらす美しさ。
それらは、人間のエラーが生み出す表情にも通じるのではないだろうか。
だとしたら、そこに感じる愛しさには抗わず、変化が感じさせてくれる美しさへの憧れを抱きながら、おおらかなもの作りを目指していこうと制作を進めています。

コロナ禍でギャラリーや使い手との直接の交流の機会が失われた中、制作に打ち込み、藤田さんならではの表情を持つ器や作品が増えていきました。
じわじわとその作品の人気が高まる中、作り出したものを介して生まれる人との出会いが、より藤田さんの制作を豊かにしていくことと思います。
 
満を持しての出展という「工房からの風」でも、
ぜひよき出会いを叶えていただきたいと思います。


藤田永子

1989年 栃木県生まれ。
東京藝術大学美術学部工芸科鍛金卒業。
東京藝術大学大学院美術研究科工芸専攻鍛金分野修了。
現在、都内の工房で制作、作品展を中心に発表。

写真:稲垣早苗・宇佐美智子
文:稲垣早苗