風人からの声
風人
かぜびと、と呼ばれる人たちが「工房からの風」にいます。
出展を果たした作家の方から「次回に出展する作家を支えるお手伝いがしたい」ということから始まったこの仕組み。
当初は「オブザーバー」と呼んでいましたが、10年ほど前から「風人」となって定着しました。
師弟関係や兄弟弟子ではなく、作り手という横のつながり。
同じ作り手として、「工房からの風」での経験を十全にしてほしい!という無私の想いが、この展覧会にどれほど豊かな風をそよがせてくれていることでしょう。
今や風人さんの存在は、「工房からの風」に、なくてはならないものとなりました。
無私の心で動く風人さんたちですが、結果的にはかけがえのない実りを得られているように思います。
一番は風人さん同士の絆です。
他者のために精一杯共に考え、共に動くことで育まれる関係。
それはその後の制作発表にもつながって、作家同士、切磋琢磨しながら、個々の仕事を高めていらっしゃるように感じています。
今年度は13名の風人さんが、縁の下の力持ちとなって第20回展を支えてくださいます。
その中から5名の風人さんからのメッセージをお届けします。
工房からの風 director 稲垣早苗
2020年コロナ元年「工房からのそよ風」として縮小開催の年の風人さんたちと。
困難な中にありましたが、爽やかにあたたかく会を終えて、出展作家を送り出したあとのほっとした表情が、マスクの下に隠れています。
工房からの風 director 稲垣早苗
作る風景
工房からの風には「craft in action」という副題があります。
作家が日々を暮らし、思索を重ね、時に悩み、時に語らい、制作へ向かい、伝えてゆく。
今回はそんな日常の営みをactionと捉え、その一端をご紹介できればと思います。
今回、「風人からの風」というテントを設け、そこでは映像を見ていただきます。
今年の風人のうち7人の作家の普段の制作の様子を撮影したものです。
作家が作る場として選んだ工房、作り手の動きひとつひとつの機微。息遣い。
作り手それぞれのリズムのようなもの、それらが醸し出す空気。
まさに工房からの「風」を感じて頂ければ幸いです。
そして工房からの風には、54組の作り手が、同じようにそれぞれの営みを持ち寄って集まっています。
工藝を見るとき、選ぶときに、その背景を必ずしも知る必要はありませんが、少し興味を持って覗いてみることで、目の前に広がる会場の風景もより立体的に、奥行きを持って映るのではないでしょうか。
そうして手にした作品は、より一層の愛着を持って、その人の日々の営みに寄り添ってくれるものと思います。
「風人からの風」テントで
放映予定の映像
(敬称略)
- 和泉綾子
- 染織 RIRI TEXTILE
- 大野七実
- 陶芸
- 岡林厚志
- 木工 hyakka
- 香田進・佳人
- 木工 アトリエ倭
- 小泉すなお
- 陶芸
- 㔟司恵美
- 竹
- 吉田慎司
- ほうき 中津箒
素材の学校
新人工藝作家の登竜門のような「工房からの風」には、真剣で新鮮な工藝作家が集います。
その会場の一角で、「素材の学校」というワークショップのテントが生まれました。
工藝?手しごと?暮らしの道具を作る?
日頃出会うことのない工藝作家から直接ものづくりを教わり、素材に触れる貴重な機会をこどもたちに楽しんでもらいたい。そんな願いをこめたテントです。
回を重ねるごとに、たくさんのこどもたちが集まるようになりました。
出来上がった作品を小さな手のひらに乗せて見せてくれる姿は、まるで未来の作り手のようです。
「先生」をしてくれた風人さん達は、自分が普段使っている素材の魅力をこどもたちにたくさん伝えてくれました。
スピンドルを使って魔女のようにスルスルと糸を紡いで見せたり、作ったカスタネットで演奏をしたり、制作前にイノシシの骨を持参して、これから使う革の背景を自作の紙芝居で読み聞かせてくれた「先生」もいました!
「素材の学校」新聞を作ったり、15周年いちごケーキのデコレーションやいちご点灯式?をしてみたり。テントを飛び出して、こどもたちと一緒に作家テントを巡りたい!という思いから、キッズ庭巡りツアーという楽しい企画も始まりました。
有形なものづくりを続ける私たちが、未来の作り手になるかもしれないこどもたちに、ほんのひとしずくでも何かを伝え、つなげることができたなら。
それは体験という無形なものづくりなのかもしれません。
コロナ禍でお休みしていた
「素材の学校」は、
3年ぶりに開校します。
- ミニほうき作り 講師 吉田慎司
- 竹のバターナイフ作り 講師 勢司恵美
- お水でゴシゴシ、羊毛フェルト体験 講師 izoomi
- 20回展記念企画 端材を活かす「カサナルブローチ、ツナガルペンダント」
- キッズ庭めぐりツアー
工藝の両輪
「工房からの風」は、自分たちがワークショップで伝えたいことを見つけた場所だと思っています。
「工房からの風」でワークショップをさせていただくまでは、木の素材は使っていても、絵付けや色塗りがメインの内容ばかりしていました。
題材がおもちゃだからとか、先の尖った道具を使うのは危ないかもしれないとか色んな理由をつけて、どこかで手軽さを考えていたような気がします。
でも「工房からの風」で、ものつくりに真剣な人たちと、その人たちの言葉を真剣に聞いてくれる方たちに出会って、自分たちの仕事をきちんと伝えることがワークショップの機会をいただいたことに対しての本当なのかなと思い始めました。
自分たちの持ち場がもしあるのならその場所に誠実にいたいと考えるようになったことは、「工房からの風」に吹く「惜しみなく」の気持ちから来ているように感じています。
そこから色鉛筆やペンなどを使うのを一切やめてヤスリとボンドとオイルだけを使う内容に転換していき、毎年のテーマに沿った内容でワークショップを考えるようになりました。
今では建具屋の修業時代に使っていた道具もたくさん持って行くようになり、大人の方もお子さんも同じように色々な道具を使っていただいています。
そうして振り返ってみると、以前よりワークショップが面白く、とても好きになっていました。
作ったものを使っていただくという作品をお渡しすることで伝える工藝と、一緒に手を動かす時間としての体験で伝える工藝があると考えていて、両方をきちんと伝えられるのが「工房からの風」という場所だと考えています。
今年は「風の…」シリーズで最初に行った「風のカケラ」を再びさせていただく予定で、今年ならではの「つながる、かさなる」企画を考えています。
20回展という記念の年に皆さんと一緒に手を動かせることを、とても嬉しく思っています。
今年もワークショップを通して、佳き出逢いの風が吹くことを願っています。
風の場
工房からの風は地元市川での開催ということもあり、初回からずっと見てきました。
応募の機会は幾度もあったと思いますが、craft in action のアクションって自分にとってどんなことだろう?と思いながら、なかなか応募には至らず…
制作から少し離れた時期があったのですが、再開のタイミングで出展への気持ちが固まったのが2015年。
普段の仕事とは別に、小さな土の塊から無心になってひとつかたちを作ると決め、出展までの約半年ほど毎日欠かさず続けました。
なぜうつわなのか、土なのか。
自身の心への問いかけは、好きではじめた仕事の原点にもう一度還りたいという思いがあったのだと思います。
アクションは日々の営みでした。
やりたいことに存分に打ち込む時間の豊かさを知り、その事に取り組めたこと。
結果、大勢のお客さまに愉しんで選んでいただけたこと。
その喜びをこの手に実感できたことは今自分の心の大きな支えとなっています。
そんなひとりのチャレンジを受け止めてくれる舞台が工房からの風にはあります。
これだけ多くの方々に一堂に見ていただける機会はなかなか無いことですし、作家の想いをあたたかく見守ってくださるお客さまが沢山いらっしゃるように感じます。
以来、自分の経験と感動を伝えたいと思い、毎年風人として展を陰で支える立場をいただいています。
その間に出会えたさまざまな作家との繋がりは、かけがえのないものです。
つくり手の純粋な想いに触れるたび、気づきと励ましをもらっています。
中でも風人同士の関係は、作家としての尊敬と人としての信頼で結ばれた、風の場を大切に思っている同志のような存在です。
誰かのために惜しみなく心尽くすその人達と出会い、自分もそう在りたいと願いながら、共に過ごすことができるこの一瞬をわたしは本当にしあわせに思います。
風のアンカー
「工房からの風」の尊さは、作り手の根にある部分、つまり、心の奥で大切に育ててきた核心を素直に表現していい。恐れずに自分を信じていい。と、スタッフ、お客様、作り手が等しく共有していることだと思います。
そうして、純粋で真剣なものづくりが集うことで、それぞれの工人が互いの人生を認め合い、仕事が祝福され、肯定される場を育んでいるように思うのです。
僕自身、作品を発表し始めた時期はクラフトブーム全盛で、とても波風が強く、誰もが煽りを受けやすい状況だったように思います。
そんな時、「工房からの風」で得た手触りと経験は、ずっと自身の思いを信じさせてくれて、アンカーのようにいつも背骨を支えてくれていました。
ものづくりは孤独な旅。
だからこそ、今日もどこかに同志がいるという心強さは、消えない灯火として心を熱くし続けてもくれました。
「工房からの風」は、大きな希望と共に、ときに不安や緊張も伴なう現場で、人と人の繋がりの中で生まれます。
その中で柔軟に動き、時に仲立ちをして風通しをよくすることで、作り手が本来の姿を発揮できるように。そして心置きなく次の場所へ向かえるように流れを整えるのが、過去の出展者でもある風人なのだと思います。
新たな作り手が得た希望と喜びは、ものづくりの世界にとっての希望と喜びです。
それぞれの力で肥沃になった大地が、工芸という樹を強く、深く、伸びやかに育ててくれるものと僕たちは信じています。
これからも自身のためにも、僕たちの愛する仕事のためにも。
ものづくりを育む、唯一無二の場所がいつまでも続いていくことを願っています。