月別アーカイブ: 10月 2014

director's voice | コメントする

OLD TO NEW 装身具 神奈川

今日はスイスからのKAWAHARAさんの並び、
おりひめ神社の脇の出展者を続けてご紹介いたしましょう。 

OLD TO NEW

京都で錺(かざり)職の工房で働いたのち、
現在は神奈川県で制作されている吉田史さんです。 

:::

Q
「工房からの風」には、どのような作品を出品くださいますか?

A
長く伝わるものや草花などの自然をモチーフに、
主に金と銀の地金に、象牙や角や貝といった
あたたかみのある素材を加えて制作したものを出品致します。 

史さんの作品の源泉には、和の美が湛えられているのですが、
完成された姿には、今の私たちの装いにふさわしい現代性に満ちています。
まさに、 OLD TO NEW、なのですね。 

:::

Q
出展が決まってから、ご自身やお仕事などに変化はありましたでしょうか?

A
はい。
出展予定の作家さんをはじめ、
過去の「工房からの風」に出展された方々の作品を拝見し、

物作りに携わる様々な方とお話できたこと、
ミーティングで企画の方に客観的に見ていただいたこと、
全てが大きな糧となりました。
大きな目標に向かってはやる気持ちと惜しむ気持ちと、
何より楽しみに思う気持ちに突き動かされる、濃い数ヶ月を過ごせています。 

出展が決まってから、何度もお訪ねくださって、
その都度、史さんの真摯なものづくりについて、私も感じることができました。 

オーバーオールに身を包み、瞳をきらきらさせて、とってもキュートな史さんですが、
(いつしか、亜土ちゃんと呼んでおりますが(笑))意外にも小さなお子さんのお母さん。
限られた時間の中で、細やかな作業を深い集中力で行い、
これらの美しい装身具を制作されているのだと思います。

装身具の応募はとても多く、センスの良い方はたくさんいらっしゃるのですが、
技術的に深さをもっている、持とうとしている人を「工房からの風」では、
応援していきたいと思っています。

京都の錺職の工房で培った技術と感性が、
史さんという作家の中でこれからそのように華ひらいていくのでしょう。
とても楽しみに感じています。

:::

Q
好きな言葉、座右の銘、何気なく工房の壁に貼りとめているフレーズなど、
大切にしている言葉を教えてください。 

A
「神は細部に宿る」
という言葉が好きです。

細かい部分を疎かにして美しいものは出来上がらない、
と私はとらえて、隅々まで正直な物作りをしたいと心がけています。 

史さんらしい言葉ですね。

神が宿ると信じて作られた、小さく美しきもの。
会場でぜひゆっくりご覧くださいね。

OLD TO NEWさんの出展場所は、おりひめ神社脇。

ホームページはこちらになります。 → 

director's voice | コメントする

habetrotさん 草木染服 大阪

二人目にご紹介するのは、habetrotさん。
ハベトロット、と読むその名前は、スコットランドに伝わる
糸つむぎの妖精の名からいただいたそうです。

+++

Q
habetrotさんは「工房からの風」に、どのような作品を出品されますか?

A
草木などの天然染料で手染めしたリネンで仕立てた服を出品します。

「葡萄酒」や「黄葉」など 染めた色には名前がついています。
その背景にある物語も一緒にお楽しみいただけたらと思います。


habetrotさんの草木染の服への思いは、
こちらに濃く豊かに簡潔に書かれていますので、
あわせて、ぜひお読みくださいね。
→ 

+++


habetrotさんには、「工房からの風」の出展が決まってから、
何か変化がありましたか?

A
制作を始めてまだ2年で、個展や大きな展示の経験もないので、
「工房からの風」に出展が決まった時は、喜びと同時に大きな不安を感じていました。

出展が決まってからの7か月間、
精いっぱい 作品と向きあう日々のなかでいろいろな出来事がありましたが、
不安やトラブルにも めげない強さをもった自分に出会うことができました。

 

 

少し、長くなりそうですが、habetrotさん、というブランド名よりも、
ここでは友紀子さんとお書きしましょうか、
ひとりの作り手、友紀子さんとの、数か月のことをお書きしますね。


「工房からの風」では、なるべく出展作家と個別にミーティングを重ねています。
友紀子さんからは、3月末の出展者全体ミーティングに来られた後に、
すぐに面談のアポイントの打診をいただきました。
大阪から来られるというので、何かついでがあるのかな。
そう思ってのミーティングでしたけれど、そうではありませんでした。
友紀子さん、このミーティングだけのために、大阪から夜行バス往復で来られたのでした。
その意欲に驚き、ありがたく思ったのでした。

けれど、見せていただいた作品を前に、困ってしまったのも事実でした。
作品の完成度が、私の望むところになかったのです。
特にミシンの腕に厳しいものを感じ、これで出展して大丈夫だろうかと。

「工房からの風」のお客様は皆様、目が肥えていらっしゃいます。
まして、ミシンがとても上手な方はたくさんいらっしゃることでしょう。
う~む、困った。。。

その日、友紀子さんとゆっくりお話しした中で、なぜ友紀子さんがこの道に進んだのか、
そして、どれだけ真剣に進もうと思っているのかは、痛いほど感じました。
けれど、その思いを形にしてこそプロ、なのですね。
出展を来年に見送ることも検討したほうがよいのではないだろうか。
そんなこともお伝えしました。

けれど、このタイミングでぜひ前に漕ぎ出していきたい。
静かで控えめな印象からは意外なほどに、友紀子さんの意志は固かったのです。

「作って作って作ることで腕を上げるしかないと思う。
6月のgalleryらふとでの「風の予感」展には、少しでも上達した服を見せてくださいね」
厳しいようでもありますが、そう心から励まして、その日は別れたのでした。


そして、6月のはじめ。
galleryらふとでの展覧会「風の予感」。

面談のあと、精一杯縫い上げた服を展覧会のために梱包し、宅配会社に託したあと、
あろうことか、輸送中に交通事故が起こって、
友紀子さんの荷が行方不明になってしまったのでした。

前日の搬入時、大阪でそのトラブルを知った友紀子さん。
電話で交わした不安そうな声は今も忘れられません。
荷がどうなったかの確認がとれないまま、
「とにかく元気にギャラリーまでやってきて!」
と伝えるのが精一杯でした。

展覧会初日の朝、願いは虚しく、荷、すなわち作品は全焼したことが判明しました。
私もこの仕事を30年近くしてきましたが、このようなことは初めてです。
しかし、起こってしまったのですね。
(当時、ブログでも「輸送時のトラブルでご覧いただけない状況となっております」
とお伝えしていたのはこのようなことでした → 

このような中、ギャラリーに来られて、友紀子さんは肩を落としてこう言いました。
「少しでも上達したミシンのステッチを、イナガキさんにはどうしても見てほしかった」と。

それはとても辛くて、残念なことだったのですけれど、
がっくりとしながらも、友紀子さんの何かをやりきった者だけが持つ、
清々しいような姿を前に、このような言葉をかけずにはいられませんでした。

「その作品を今回見ることはできなかったけれど、
友紀子さんの腕がつかんだ技術は、ちゃんと身体に残ったはずだから。
今回つかんだ手の感覚は、消えてなくなったりしないのだから」と。

この日、ギャラリーで一緒に参加した他の作家の方々にも心から励まされ、
よい刺激をたくさん受けて、再び夜行バスで友紀子さんは大阪に帰っていきました。
ギャラリーを後にして、庭のレンガ道を歩いて帰路につく友紀子さん。
その後姿の肩はちゃんとあがっていて、
ああ、もう大丈夫。
そう確信したのでした。


約一か月後、七夕の頃。
おりひめ神社の前にある「galleryらふと」に、再び友紀子さんがやってきました。
新たに布を染め、その布で服を縫い上げて。
そのミシンのステッチは、春浅き日にみたものから格段に滑らかで、
腕と手に蓄えた技術と、心に育まれた自信が、服のかたちに表れていました。

もちろん、ミシンの技術だけでいえば、
プロとしてもっともっと精進しなければならないことと思います。
けれども、想いを深くもって布を染め、服を縫うことをまっすぐに進む人が、目の前にいる。
それを応援しなくて、何の仕事だろう、そう思いました。
もちろん「工房からの風」で「habetrot」の作品を見る目にバイアスをかける必要はありません。
けれど、こんなやりとりがあったこと。
この場では、お伝えしたいと思ったのでした。
これこそが、「工房からの風」の大切なものだから。

(とはいえ、ずいぶん長くなってしまいましたね、すみません。。。)

Q
habetrotさんの好きな言葉、座右の銘、何気なく工房の壁に貼りとめているフレーズなど、
大切にしている言葉を教えてください。

A
「草根木皮、これ小薬なり。
鍼灸、これ中薬なり。
飲食衣服、これ大薬なり。
身を修め心を治める、これ薬源なり。」

こちらは中国の最も古い書物の中に書かれている言葉です。
漢方薬や治療よりも、もっと効くのが飲み物食べ物と衣服なのだそうです。
私が草木染めの制作をはじめる きっかけとなった言葉のひとつです。

habetrotさんの服、さあ、どんな風に会場にそよぐでしょうか。

出展場所は、おりひめ神社ゾーン。
ギャラリーらふとの奥、日本庭園の中です。

habetrotさんのブログはこちらになります → 

director's voice | コメントする

KAWAHARA YUKIKOさん 布フェルト スイス

トップバッターは、一番遠い「工房から」出展くださる方を。

KAWAHARA YUKIKOさん。
スイスからこの展覧会のためにやってきてくださいます。

Q
KAWAHARA さんは、「工房からの風」にどのような作品を出品くださいますか?


ミトンの手袋、帽子、ストールやマフラーなど、軽くて暖かく寒い日を楽しくしてくれる
身につけるものを出品させていただきます。

羊毛と布に石鹸水をこすったり振動を与えてフェルトを作る、
シート羊毛という方法で制作していますが、
素材の良さ、フェルトで作る意味とその特徴を生かした形と
メリノ羊毛とのシルクやコットンの繊維が絡まり合ってできる色や表面の風合が特徴です。

スイスはもうすっかり秋も深まっているようですが、
「工房からの風」のころの日本、千葉の市川は、
ちょうど秋が深まる前の一瞬の穏やかな輝きの季節ですね。
フェルトがだんだん恋しくなっていく季節!

+++

Q
出展が決まってから、ご自身やお仕事などに変化はありましたでしょうか?

A
フエルトを初めて14年が経ちましたが、日本でのグループ展の参加は初めてです。

出展が決まった当初は「いろいろなものを皆さんに見ていただきたい」と
妙な気合いが入り、迷いや不安もありましたが、
制作を重ねながら『わたしがフエルトをする意味』を改めて考え、
『根幹』を見つめ直す良い機会になりました。

制作中はニッケの会場の緑の中の杜をイメージし、
そこに吹く風を想像し、そこ生まれる出会いを妄想!?していたので
いつもの作品とは違う見えない空気(の様なもの)が
羊毛の間に作品の中に感じることが出来るかもしれません。

KAWAHARAさんは、年に一度ほど帰国をされるようですが、
今年は応募時の冬に、ちょうど恵比寿での展覧会のために戻っていらっしゃいました。

未知の方からの応募用紙の中にあったその展覧会のご案内を見て、
ちょうどタイミングよく恵比寿へ伺えて、作品を実際に拝見し、
KAWAHARAさんにお目にかかることもできました。

日本での発表を増やしていこうと思うタイミングで、
ぜひ「工房からの風」に出展したい、と思われたそうですが、
いよいよもうすぐ、それが叶いますね。

+++

Q
好きな言葉、座右の銘、何気なく工房の壁に貼りとめているフレーズなど、
大切にしている言葉を教えてください。

A
<<“It’s impossible.” said pride. “It’s risky.” said experience. “It’s pointless.” said reason. “Give it a try.” whispered the heart. -unknown- >>

(このコトバを初めて読んだのが英語でした。
和訳にしてもしっくりこないので敢えて英語で書きました)

「不可能だ。」と”<誇り>が言った。
「危険なのです。」と<体験>が語った。
「無意味だ。」と<理由>は述べた。
「試してみる!」と<心>がささやいた。

作者不明の言葉ですが、年を重ねる毎に仕事だけではなく多方面で自然と臆病になって、
守りの体勢になってしまうような気がしています。
わたしにとって初心に戻る為のおまじないの言葉にです。

でも今アトリエに貼ってあるのは…..

i really need a day between saturday and sunday

密かに、でも心から願っています(笑)

うーん、なんとも素敵なおちまでつけていただき、ありがとうございます!
KAWAHARAさんの出展場所は、おりひめ神社の脇。
スイスから、純和風な雰囲気の中での展示ですね。

ドイツ語中心ですが、ホームページはこちらになります。
→ 

また、日本語はこちらです →