director's voice

大住潤さんから

「工房からの風」出展を終えて、工房へ戻った作家から届いたメッセージ。
一部を皆さんと共有させていただくことで、次への実りにつなげていきたいと
綴ってきました。
「凪ぐ浜のたからもの」

ご紹介したい宝物は、まだまだあるのですが、そろそろ幕を引きましょう。
最後は、木彫の大住潤さんからのメッセージです。

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会場となったニッケコルトンプラザに初めて訪れたのは、
5、6年前に開催された星野道夫さんの写真展でした。

写真展で感動をいっぱいもらった帰りに見かけたギャラリーらふと。
あの建物の佇まいが、ずっと心に残っていました。

「いつかあんなところでできたらいいな」と思ったこと覚えています。

そのギャラリーらふとのことから、「工房からの風」のことを知りました。
その頃は、自分自身の作品と言えるものがなく、いつか、いつかと思っていました。

そして、何を作っていきたいのか模索する日々の中、
木彫りの羽根を作り、
やっと僕も「工房からの風」に応募することができると喜んだこと鮮明に覚えています。

星野さんの生まれ故郷で出展が決まったことで、
「このまま進みなさい」と言われたようで励まされました。

風の予感展当日、自宅出発直前、持っていくつもりのなかった熊を、
なぜなのか持っていこうと思いました。
人に見せるつもりも全くなかったのです。
それが何のきっかけなのか見てもらうことになりました。
稲垣さんに熊を見てもらった時は、ものすごく恥ずかしかったです。
デッサンができなくて随分悩んでいたこともあり、
熊のプロポーションも何となくおかしいとわかるのですが、
どこがおかしいのかもわからない状態。
そんなところが気にかかって落ち着きませんでした。

けれど、その熊をいいと言って下さった稲垣さんの言葉に、
僕はものすごく衝撃を受けました。
デッサンができる、できないかは問題ではなかったのですね。
おかしいもので、そう言われると蓋をした自分の気持ちがわっと出てきました。

特別なこの場所で、まさか熊を彫ることになるなんて思いもしなかったです。

本当に夢のような時間でした。

第2回のミーティング、三越でのプレ展示を踏まえて
どのようにしていこうかと迷っていた時、
心の向かう方に、全ては僕の心次第だと言って下さったのが、
熊をもうひと段階成長させるパワーになりました。
本当に大切な気持ちで熊を彫ることができました。
とにかく人の心に真っ直ぐに届くものを彫ろうと、
余計なものは削ぎ落としました。

稲垣さんの紹介文、人に伝えようとする情熱が言葉から溢れていて、
僕もそんなふうに木を彫れたらいいなと思いました。
ものすごく感動しました。

そして、この2日間、熊を見て下さった方たちのたくさんの笑顔に出会いました。
励まされ続けてきた僕がずっと探していた人の心に届けられる形、
これからも出会いを重ねて見つけて届けていきたいです。

とても幸せな時間でした。

大住 潤

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工芸、クラフト、手仕事・・・・
と呼ばれる世界の仕事に携ってやがて30年になりますが、
未だにどの言葉が自分の仕事なのかと言い切ることができません。

「工房からの風」の中で赤木明登さんとのトークイベントの中で
こんなやりとりがありました。

工芸30年説というものがあって、
民藝の時代、自己表現の時代、生活工芸の時代ときて、
稲垣さんはこれからどのような時代になると思いますか?
と投げかけられました。
そこで私はこう答えました。

「お尋ねの答えにはならないかもしれないけれど、私は絶対的な何か、
に向かって仕事をしてきてなくって、相対的な何かに向き合ってきた気がします。
それは、先にこちらにこうあるべきというものがあるのではなくて、
作家に向かって、その作家が何を作るべきかをみるやり方。
男の人は定義づけが好きだからなぁ(笑)。
今まで意識したことはなかったけれど、私は女性だから?
母性とかと関係があるのかしら?
なーんて柄にもなく思ったりしますけれど・・・」
と、会話なので和やかに。

・・・それは学問にたとえれば、歴史学ではなく、社会学のようなものかもしれません。
揺るがない、確固とした姿が私自身にあるのではなくて、
対象に向かったとき、いかにその対象を正確に見て、感じることができるか、
そのことに心を注いできたのだとようやく思えるようになりました。

言葉や歴史学的な捉え方もとても大切だと思いますし、
そのことに注視してこの仕事を進める方々がいることも豊かなことだと思います。
一方、今何々の時代、とか、これからは何々の時代、というのを考えるよりも、
出会った作家のまんなかを見ることを深めたい、
そんなことをあらためて思った年でした。

人の暮らし、営みと結びついたもの、
素材の恵みとの関わり、
その作り手ならではの何か、
完成度・・・
「工房からの風」という展覧会としての
コンセプトやクォリティーはもちろん大切にしていますが、
先に枠を作ってしまうことで出会うべきものを
こぼしてしまわないようにありたいと思っています。

クマであってクマだけではない姿。
そこには大住潤というひとの中の真実があって、
その真実が幾ばくかの他者の心に芯から沁みていく。
そういうきらりと輝くものの意味を味わいながら確認できるのも、
凪ぐ浜で出会えた宝ものなのだと思うのです。

大住潤さんの出展前のメッセージはこちらになります。
→ click

-次年度応募に向けての記事など、しばらくブログ更新続けます-