director's voice

松塚裕子さんより

凪ぐ浜の宝もの、数日お休みしておりました。
訪ねてくださっていましたらすみません。
大きな波が引いて、いつしか日常のあれこれ、業務が始まり、
鎮まった浜辺での、宝もの拾いのよう時間が失せていくんですね。
少し寂しいけれど、次への風を生んでいく準備の時間が始まったのでしょう。
前に進んでいこうと思います。

出展作家からいただいたメッセージの公開はここまでとして、
あと二回、風人さんからいただいたメッセージの一部をご紹介して、
今年の凪ぐ浜での宝もの探しを閉じようと思います。

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今年、文庫テント、という空間を創りました。
工房からの風の前身の活動時から続けてきた冊子作りを通して、
作ることと言葉の営みを感じていただくテントです。

私から長野麻紀子さん(Anima uni)と、松塚裕子さんに担当をお願いしました。

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この短冊のような白く下がっているものは、
風人さんたちがものづくりに寄せた言葉の数々。
それを長野さんがすべてミシンで縫って封筒にしてくださったのでした。
美しさには愛が宿っていました。
(この展示は、11月3日4日のgalleryらふと「風の余韻」で再構成します。
ぜひ、見にいらしてください。)

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これら以前に編んだ小冊子をチャリティー販売しましたら、
予想をはるかに超えてお選びいただいたのでした。
皆さん、作り手の言葉に触れることをとても望んでくださいました。

文庫テントで、長野さんと松塚さんに、
工房からの風のこと、小冊子のことなど、
熱く語ってくださった以前からのこの活動のファンの方々。
おふたりを通じて、そのお気持ち、伝わっています。
ありがとうございます。

すべての風人さんが、無私の心で出展作家や来場者の方々、
そして私たち企画者にまで心を注いで
「工房からの風」にま向かってくださいました。
どの企画テントや担当もすべて心のこもった運営がなされて、
そのことが「工房からの風」を豊かにしてくれていたんですね。
あらためて、この場からもこの縁の下の力持ち風人さんにお礼を申し上げます。

文庫テント担当の松塚裕子さんから寄せられた文章
松塚さんのブログ)から、許可をいただき、
一部を転載させていただきますね。

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いしいしんじさんの、ぶらんこ乗りにでてくる一説がぽかっとうかんでくる。

サーカスのぶらんこ乗りの夫婦の話のところ。

―わたしたちはずっと手をにぎってることはできませんのね

―ぶらんこのりだからな

ずっとゆれているのがうんめいさ。

けどどうだい、すこしだけでもこうして

おたがいにいのちがけで手をつなげるのは、ほかでもない、

すてきなこととおもうんだよ

・・・

工房からの風がおわって、一週間。

思うことはたくさんあったはずなのに、思考が宙をさまよったまま、

なかなか言葉がでてこなかった。

洗濯だの掃除だの制作だの寝かしつけだのをとにかくめいいっぱい

繰り返す日々のなかで、昨日あたりほんとうにぽかっと思い出した。

ああ、そうだよなあ、こういうことだよなあ、と。

ようやくすこしすっきりする。

いつまでもずっと、てのは何事においても絶対にない。

ほんとうに手をつなぎたいときに

もうその手はなくなっていることだってある。

つなぎたいと思う手があるのならば

すこしの時間であってもいい、しっかり握っていないと。

ぶらんこ乗りは、生きているってこと、そのものだよなと思う。

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たとえばそれが「工房からの風」という場の出来事であれば、
出会って真剣に関わりたい、と思ったのなら、
しっかり手を握ってみる。
ずっと握っていることなんてできないのだから、握るのなら真剣に。

人と出会うって、生きているって、こういうことじゃないかな。
と松塚さんの文章から気づかされる。

惜しみなく。
すべてにそれはできないのかもしれないけれど、
そうせざるをえないことと巡り合えたとしたら、
迷わず惜しみなくできるといい。
幸せの濃さってそういうことだ。

けちにならない。
そう、多くのすばらしいものづくりに共通するのは
けちじゃないということ。
だからこそ、人の心に響く、打つものを作り出せるのではないか。
そんなことを思うのでした。

出展作家の中で、もし悔いが残る人がいたとしたら、
あなたは惜しみなくま向かったでしょうか。
そう問うたとしたら、それは厳しすぎるでしょうか。
小さな反省などの前に、小さなけちにならずに、
惜しみなく向かったらいいのだと、愛を持って伝えたい。

たくさんの手ごたえと感謝のメールの中に、
やりきれなかったことを悔いるものも交じります。
いや、それ以前に、無事戻りました、と
ひとこと返せない作家のことを想います。
今回はすでに終わったこと。
でも、ぜひこれからの時間の中で、作る仕事を選んだことを、
しっかりと握って進んでほしいと思っています。

・・と、えらそうなことを書きましたけれど、
私自身反省がいっぱい。
惜しみなくやれた、といいきれることもあるけれど、
やれなかったなぁと思うことも多々。
特に、出会った49組の作家の想いをちゃんと握りしめられたか、
といえばとても全員には出来なかった。
「それはしかたないんじゃない、当然だよ」
と言ってくれる声が聞こえてくるけれど、
そうじゃないって、松塚さんの文章、
いしいしんじさんの文章を読んで思いました。

すこしだけでもこうして
おたがいにいのちがけで手をつなげるのは、ほかでもない、
すてきなこととおもうんだよ

こんな思いを底において、爽やかに次に向かって進みたいと思います。
次回の応募も12月1日から始まりますものね。

凪ぐ浜の宝もの、次の長野麻紀子さんからのメッセージを持って閉じますね。