Q1
『 北アルプスの山々が初冠雪しました。』
と、コメントを寄せてくださった佐藤かれんさん。
「工房からの風」には、どのような作品を出品されますか?
A1
今回が2回目の出展になります。
前回から4年経ち、織るときに使う技法や色、作品の種類や量が増えました。
当日は、この4年間の織りの広がりを、作品を通してお見せできればと思います。
制作では、織物留学をしたスウェーデンでの経験や、日々の暮らしからの「実感」を大切にしています。
この「実感」とは、言い換えると、その作品を織りたいと感じたときの背景です。
今年の「工房からの風」に向けて織ったものから、3つ作品を紹介いたします。
タオル
コットンとリネンのタオルです。
ハンドタオルとバスタオルの、2種類を制作しています。
タオルとして拭くだけでなく、ランチョンマットのように敷いたり、カゴやバッグの目隠しに掛けたり、暮らしに合わせて用途が広がります。
留学中、ルームメイトがお風呂上がりに、薄手でクタッとした布を、いつも部屋に干していました。聞くとその布は、バスタオルだそうで、スウェーデンでは一般的だと教えてくれました。
タオルといったら、厚手でフワフワだと思い込んでいた私にとって、驚きの返答でした。
その後、授業でスウェーデンのタオルを織る機会がありました。
完成後に使ってみると、なんとも言えない心地よい質感で、手放せなくなりました。
手元には使い始めて9年目の、手織りのバスタオルがあります。
今回の出展の際に、見本としてお持ちいたします。
使い込まれたタオルと、新しく織ったもの、それぞれの手触りの違いを感じていただきたいです。
クッション
スウェーデンの民族衣装から着想を得て、ダーラドレルという技法で制作しています。
ダーラドレルは、スウェーデンのダーラナ地方の伝統の織りです。
この地方に学校があったので、留学中、ダーラドレルの布を多く目にしました。
特に、ダーラドレルの模様が織られた、民族衣装が印象に残っています。
スウェーデンの衣装はとても装飾的で、細かい刺繍や色鮮やかなポンポンが沢山付いています。
装飾と合わさると、ダーラドレルの模様が一層引立って、衣装の上でハッとするほど美しく見えました。
その美しさを織りたくて、表面にダーラドレルの模様、裏面に刺繍、四隅にポンポンを付けたクッションが出来ました。
表面、裏面、隅まで愉しめる、手仕事が詰まったクッションです。
会場でお手に取って、様々な角度からご覧いただけると嬉しいです。
膝掛け
コットンとラムウールで織った膝掛けです。
ラムウールのふんわりとした風合いに、コットンのさっぱり感が加わって、肌寒い季節に最適です。
自宅では、昼寝のおともにしています。
大判のストールとして羽織ったり、ソファーに掛けても素敵です。
今回の膝掛けは、8月の「工房からの風」のミーティングで、出展場所を確認した弾みで制作しました。
私のテントは、おりひめ神社の鳥居のほとりです。
木々の間で、少し薄暗く、木漏れ日がひらひら揺れる場所でした。
その様子を見たとき、ここに色で明かりを灯したい、その為に、何かぴったりのものが織りたいと感じました。
新鮮な気持ちのうちにと、帰路で頭をフル回転させて、翌日一気に織ったのが、写真の膝掛け3枚です。
勢いに任せて制作したからか、とっても爽やかな色調になりました。個人的に、今年の出展の、記念のような作品です。
Q2
佐藤かれんさんの工房で大切な、あるいは象徴的な、あるいはストーリーのある「道具」について1点教えてください。
A2
スウェーデンからやってきた、織り機です。綜絖16枚、織り幅150cm、重量約300kgの、大型モデルです。
北欧で初めて織りを学んだ私は、卒業後、日本で織りを続ける手立てがありませんでした。
知人もおらず、道具も場所も、何ひとつ揃っていない状態で、残念な気持ちでいたとき、スウェーデンの先生が、織り機を譲ってくださる方を見つけて、日本へ送ってくださいました。
その織り機の持ち主は、先生のお知り合いの作家さんで、本を何冊も出版するほど、織りに精通されていました。
ご高齢になり、織りをやめ、道具を手放すことにしたそうです。
私には勿体ないほど立派な織り機がやって来て、この織り機を活かすためにも、これからも制作を続けたいと、作家活動が始まりました。この織り機があるから、今の自分の制作ができている、とても大切な存在です。
Q3
お手持ちの「工藝品」で愛用、または大切にされているものついて1点教えてください。
A3
手作りのシャトルです。
スウェーデンで織りを学ばれた日本人の先輩が、私の作家活動の応援にと、昨年に譲ってくださいました。
彼女が北欧にいた頃に、知り合いの木工作家の方にお願いしたもので、糸を入れる所に、作り手のサインが入っています。
一般的なシャトルよりも分厚くて、曲線的なつくりです。
使い込まれて、艶やかな見た目をしています。
手によく馴染んで、糸が魔法みたいにスルッと通るので、他のシャトルも持っていますが、こればかり使ってしまいます。
佐藤かれんさんが前回出展くださって4年が経つのですね。
ちょうどコロナ禍の前年。
最年少作家でした。
もちろんベテランの染織作家のような完成度には至らなかったでしょうけれど、ひたむきに織り上げられた布の瑞々しさに、多くの方が魅了されていました。
コロナ禍の3年間。
弛まず織り続けた先の今展。
ひたむきさはそのままに、織りの手も成熟してきたかれんさん。
初期感動、初期動機の光を失わず、手が掴んだ技術をもって、作品のバリエーションも一層豊かになったようです。
8月のミーティングで、出展場所を確認したパッションのままに織り上げた膝掛け!
ぜひ、見て、触れてみたいですね!
おりひめ神社鳥居のふもとで。
かれんさんのインスタグラムは、こちらです。
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