director's voice

「日常」の中に閃きを  上山遼さん(dairoku・陶芸)

今展より6名の作家から寄稿いただきました。
「つくるひとの手−工房からの風景」

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「日常」の中に閃きを
上山遼

兵庫県にて「物質」「日常」「感覚」をテーマに制作しています。
小さい頃から焼き物に興味があった訳ではなく、むしろそのような世界とは無縁で、とにかく外で遊ぶ子供でした。

焼きものに携わる前は、看護師として働き、傍ら写真作家としても活動をしていました。
写真という媒体と向き合い、展示活動をする中で、「何か自分からかけ離れていることをしている」ような感覚に陥っていきました。
自分の手の届く範囲のものや「日常」の生活環境に視点が移った頃、偶然TVで放送していた珠洲焼のドキュメントを見ました。
その中で作家が土練機から出てくる板状の土の塊をそのまま焼いて、板皿を仕上げている姿を見て、真新しい感覚に出会いました。
小学校の図工で粘土からマグカップを作った記憶はありますが、生活の中で当たり前にある食事の場で必要なうつわが「こんなにダイレクトに土からできているのか」となんとも言えない気持ちになりました。

その感動を胸に、実際に珠洲を訪ね、陶芸体験をしたところ、自分の手で土に触れることでさらにその感動は大きくなり、「土」という自然のものと、自分の手でそれに触れる行為が非常に心地よかったのです。
そして、帰ってすぐ写真という「光」という媒体から「土」へと対象が変化をし、陶芸制作を始めました。

自分はバブル崩壊後生まれで、物心ついた頃には生活の中に沢山の物が溢れており、自分が日々使っている物が一つ一つどのようにできているのかも、理解せず使用していました。だからこそ「日常」に潜む再発見は非常に興味深いものでした。
さらにデジタル社会が台頭している現代で、昔と比較すると「もの」を所有することが圧倒的に少なくなってきて、スマホ主体で生活を営む人も多いと思います。
デジタルという質量のないもので溢れた生活では、身体性を持って何かに触れる機会が少なく感じます。
そのような状況だからこそ、「日常」という半永久的に続く生活行為の中で、人間の身体「感覚」を通して「物質」を想起させたい。
そのことによって、自己の「身体性」を取り戻し、生活の中での心身が豊かになっていくものを制作できればと思い、焼き物に携わっています。