今展の隠しテーマは草と木。
今回木工作家の方々がすばらしく、
作風もさまざまに、見応えたっぷりな構成なのです。
隠しテーマが「草木」なせいでしょうか?
(いや、応募時にはわかっていなかったので、
そんなはずはないのですが、
天ならぬ、展の思し召し??)
京都からもおふたりの力ある作家が出展くださいます。
小林達也さんからのメッセージをご紹介しましょう。
Q1
小林さんは「工房からの風」にどのような作品を出品くださいますか?
A1
今回の「工房からの風」には、皿や小型の盆といった木の器類を出品予定です。
その中でも、漆で仕上げた角盆や、
高台付きの角皿は、実際に使用してみて使い勝手も良く、
自分でも欲しかったものが作れたと感じていて、大変気に入っています。
今回は鑿跡の仕上げの違いや、サイズも大小様々な物を制作しましたので、
ご来場の方には、ぜひ手に取って、ご自身の手と、ご自身の暮らしに、
しっくり馴染むものをじっくりと見てお選びいただけたらと思っております。
端正な形に、美しい鑿の跡。
使い心地がよく、使う程の愛着が増す器、暮らしの道具になりそうですね。
目から感じる美しさ、手から伝わる美しさ。
木の器に美を感じる日本独特の感性を幸せに思います。
Q2
工房でよく聴く音楽、
または、ものづくりを進める中で大切にしている本、
あるいは、心の中で大切にしている映画、いずれかを教えてくださいますか?
A2
東京の土田刃物店の土田昇さんの著書で
「時間と刃物~職人と手道具との対話~」
という書物に深い感銘を受け、手元に置いています。
私自身が、ものを作り出す過程において、
素材である木と、私の手の間に存在しているものこそが無数の手道具達です。
この手道具無くしては制作活動が成り立ちません。
そして、この手道具の数々も、全てが職人の手仕事なのです。
この本には、有名無名の刃物鍛冶をはじめとした手道具の作り手たちや、
名人大工や建具職等の使用者にまつわる話が詰まっています。
私も制作活動における何割かの時間を、
刃物の研ぎや、道具の調整といったメンテナンスに費やしています。
当然、その時間は作品は出来ていかない訳ですが、
研ぎや調整無くしては、仕事になりません。
刃物を研ぐという静かな時間は、
作り手にとって、刃物との対話の時間なのだと思います。
年代物の古道具なども時に仕事に使ってみようかと思い、
刃物を研いでみて、使い物にならず、
結局、舌打ちするようなこともあるのですが、
その静かな時間の中で、研いでいる刃物から
物作りにおける誠実さや情熱ということを
考えさせられる瞬間が確かに存在する。
この本は、そうした、作り手と手道具の関係を
様々なエピソードをもって書いています。
物を作るにあたって、相棒である道具、
又は、なってくれるであろう道具と、
今後も真摯に向き合い続けようと思わせてくれる一冊です。
ブログを通じて作家にメッセージを寄せていただくことの喜びは、
このような文章と出会えるときですね。
作る仕事を支える道具。
その道具も作られたもの、なのですよね。
道具を作る仕事は縁の下の力持ち。
その仕事が報いられるようであってほしいと、
心から思います。
Q3
草や木で作られたもの(工芸品に限らず)で、
大切にしているものや、思い出に残るものをひとつ教えてください。
A3
昔から家にある「鞍掛」です。
鞍掛とは元は乗馬の鞍を掛けていたのですが、
踏み台や腰掛として使用することもあったため、
いつの頃からか、踏み台や腰掛としての使用がメインになったようです。
代々農家だった我が家の物は、
もちろん鞍など掛けたことも無いような風体のものですが、
亡き祖母が昭和の初めに嫁いできた頃からあったと申しておりましたので、
事実なら作られてから、80年以上は経過しています。
おそらく、家の新築を請け負った近隣の大工さんか何かが、
端材の檜でサービスにでも作ったのだろうと思われます。
座の部分は丸太を半分に割ったもので、曲面を下にして、
通しホゾで貧弱な脚が接合されているのですが、
ホゾに全く緩みが見られない隙の無い仕事がされています。
決して、大切にされてきたものではありませんが、
いつも玄関先の広い土間に置かれ、農作業や、餅つきなど、
我が家の日常の暮らしを見守ってきたものです。
今では私がたまに腰をおろし、コーヒー片手に、
本を読みながら子供たちが玄関先で遊ぶ姿を見守っています。
もちろん定位置は玄関先の土間です。
80年以上も前、ふと作られたかもしれない鞍掛が、
時を経て、このように見て、感じてもらっていること。
見る目、感じる心を持ったひとに出会えたこと。
ものの力、ひとのちからを感じさせてくれるストーリーを
お伝えくださってありがとうございます。
小林達也さんの出展場所は、ニッケ鎮守の杜。
銀座アスターを背中に並んだテントのひとつです。