director's voice

伊香英恵さん・染織・栃木

伝統工芸の染織の道から現代の暮らしの布へ。
そして岩手県から栃木県へと工房も移されて、
変化の中にある伊香英恵さんです。

Q
伊香さんは『工房からの風』に、どのような作品を出展されますか?

A
昨年まで故郷の岩手・宮古を制作拠点に、
着物となる反物を織る伝統工芸の染織をやっていました。
そこで培った伝統の趣を着物以外に織り込んだ作品を出展します。

バック タペストリー ストール ファブリックなど
素材も絹・綿・麻 と さまざまです。

沖縄で学ばれた染織技術が、精緻な織りに結実しているのですね。
和の雰囲気も、若い伊香さんらしく、愛らしい表情の作品となっています。

Q
『工房からの風』は伊香さんとってどんな風ですか?
そして、どんな風にしたいですか?

A
昨年吹いた2つの風

3月11日、整えてまもない故郷・宮古の工房を津波で失いました。
あるはずのものをあっという間にさらわれた空虚感と 変わり果てたふるさとの姿を目の当たりにし、
さらには それゆえに染織なんて仕事が必要なものなのかという疑問が頭から離れず
2ヶ月ほど負の風の渦から抜け出せませんでした。

しばらくして 少しずつ周りが前を向きはじめた頃、
私にも「また絣の作品楽しみにしています!」といった励ましの言葉をたくさんいただき、
私の作るものを楽しみにしてくれている人がいる喜びをバネに、栃木の住まいで制作を再開しました。

狭い部屋に機を入れた小さな工房ですが、
自分らしくいられるこの時間や空間がやっぱり心地よいことを思い出し
再び機に向かうことが楽しく、今があります。

また昨年は、母となり、家の中には小さくても存在感ある風が吹いています。
この小さい風に制作時間は以前の3分の1となりましたが、これも私の風の流れのひとつ。
「今 できることを。今の私にできることを。」
すべての風がそうささやくのです。

大きな風が2つ吹いたことで、
私自身が吹かせていた風はスピードを弱めたかもしれません。
しかし、今 私の中で吹いている風は希望の風です。
この風を吹かせ続け、さらにはたくさんの人に希望を届けられるような
「工房からの風」になれば、と思っています。

伊香さんの体験されたことを前に言葉もありません。
けれど、新しい命の誕生と、工房の移転、その前に向かうエネルギーを、
この『工房からの風』に向けてくださったこと、
ありがたく思います。
「今 できることを。今の私にできることを」
こうして、かたちとなった作品、楽しみに出合いたいですね。

伊香英恵さんのホームページはこちら → 
出展場所は、コルトン広場『スペイン階段前』のテントです。