2016年10月の記事一覧

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堀江悦子さん(染織)

7人の織り手がいます。
とご紹介しましたので、続いても布づくりの方をご紹介しましょう。
棉の布ここいと
として活動されている堀江悦子さんです。

Q
堀江さんは「工房からの風」に、どのような作品をお持ちくださいますか?

A
手紡ぎ和綿のストールや、細めのマフラーなどを持って行きます。

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堀江さんの布に初めて触れたとき、
織りの組織を新鮮に感じました。

織り物はご存知のように、
経糸と緯糸の組み方でさまざまな組織が生まれ、
それによって織模様が現れてきます。

棉での布づくりを進める方には、
糸そのものの魅力をストレートに活かした
平織りの方を多く見てきたので、
棉の組織織のさまざまな表情に驚いたのでした。

聞けば堀江さんは「織る」こと、その行為が大好きなのだと。
けれど、棉糸を使ってその大好きなさまざまな組織を
織りあげていくことが喜びながら、
そのこまやかな仕事、時間のかかることに対する理解が、
使い手から得られるものだろうかというのが、悩みのようでありました。

夏の日本橋三越展。
堀江さんにチャレンジしてもらいました。
組織の布で大ぶりなものを出展してみましょうと。

結果は大成功。
日本橋三越のお客様に、きちんと布の魅力が伝わっていました。
素材の魅力と織りの魅力。
そのどちらもを大切にしている作者ならではの布は、
お客様にも新鮮に映っていたのでした。

堀江さん、背中を押されるようにその結果に励まされて、
「工房からの風」に向けて制作を深めてくださっています。
とはいえ、何分にも数がたくさん織りあげられるものではないのですが、
きっと夏からまた数歩進化した布と出会えそうなのです。

Q
堀江さんにとって「工房からの風」は、どのような風でしょうか?

A
お客さんとしてではなく、出展予定者として過ごした半年間。
「風」に対する認識も大きく変わりました。

この半年、とても幸せで心地よい風に吹かれてきました。
それは手仕事に懸命に携わっている人たちが興す風です。
自分がやっていることに不安を感じながらの日々の中、
このまま進んでもいいんだと優しく背中を押してくれる風でした。

でも、まだ私は風に吹かれている身です。
いずれは私も風を興す側に立てるように、、、
実りある二日間を過ごせたらと思います。

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『まだ私は風に吹かれている身です。
いずれは私も風を興す側に立てるように』

直前のこのタイミングで、
こんな風にメッセージをくださる方ってなかなかいらっしゃらないように思います。
読んだとき、はっとしました。
そうですよね。
ひとりひとりがよき仕事を果たして、その力が循環していく。
そんな機会にしていきたいなぁとあらためて思ったのでした。

Q
堀江さんのお名前、あるいは工房名についての由来、
またはエピソードを教えてくださいますか?

A
「棉の布ここいと」という工房名でも活動しています。
心地、此処で、此処から、愛おしい、営み、糸、、、
制作上、常に頭の隅に置いている断片的なことをひとまとめにした造語です。
また、植物であるワタの布を織る意識で、
糸偏でなく木偏の「棉」という文字を使っています。

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綿ではなくて棉。
はい、堀江さんの出展場所は、棉を植えた花壇の近くにしました!
「工房からの風」の日、まだ棉が弾けているかもしれませんね。
ぜひ布と合わせて楽しんでいただきたいと思います。

堀江悦子さんのサイトはこちらになります。
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written by sanae inagaki

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色葉工房さん(染織)

布関係の出展作家、今年は11組。
先日ご紹介したVANILLAさんは服づくり。
ほかに、フェルトがふたり、帆布のバッグづくりの方がひとり。
そして7名の作家が織りでの布づくりの方々。
充実しています。
そして、それぞれに素材、技法、目指すものがさまざまなのです。

表面的に、これが好き!あれが好み!
という見方もアリですが、
7人が何をもって布づくりの道に進んでいるのか、
その根っこの違いに触れてみるのも、
「工房からの風」ならではの深い楽しみ方だと思います。

もっとも、当の7人の作家たちにしたら、楽しいというよりも、
それはある意味厳しく、
自分の仕事が晒される緊張感があることでしょう。
でも、たくさんの目と心ある方々に
自分の仕事を晒してこそ進化成長できるはず。
そして、未来の真の作る喜びに続く航路を
見出していけることと思います。

なーんて、かなり、まじめに書きましたが、
今さっきまで、色葉工房の庄子葉子さんと電話でそんなこんなを、
わははと笑いながら真剣に話していたので。

皆さん、最終段階で何をどのように見ていただくか、
迷いもうまれることでしょう。
でも作家の皆さんには信じてほしいのです。
「工房からの風」にやってきてくださるお客様方を。
ちゃんと見てくださいますから。
キビシクもあたたかい。
選ぶ人と作る人のよき交流から、次の実りが育まれる。
そう願い、信じて、私は企画を進めています。

Q
色葉工房さんは「工房からの風」に、どのような作品をお持ちくださいますか?

A
手紡ぎのウールで織ったマフラーや
シルクのストールなどの巻き物を中心に
リネンのポーチ、袱紗、カードケース、
ブックカバー、ポットマット、コースター、ブローチなどを出品します。

身近な植物で染色した糸や生地を使って作ったものが多いです。
ふんわりと草木の色が薫るような布を お届けできればと思っています。

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まあ、なんてふんわり輝く大判のストール。
思いっきり素のまま、織りあげられたのですね。

「庄子さん、桜のひこばえで染めてみる?」
初夏のgalleryらふとでの「風の予感展」のとき、
ふと、投げかけてみました。
木の根元から生えてくる若芽、ひこばえ。
庄子さん喜んで受け取ってくださいました。

秋の日、花びらのかたちをしたコースターが、
庄子さんから届きました。
「私はそういうことがしたかったのだと、
改めてじわじわ気がつきました」
そう言葉が添えられて。

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上のストール。
いただいたコースターと同じひこばえから染めた糸からのもの。
糸や色といった素材の力をまるごと信じ、
素材に恋していないと織りあげられないでしょうね、こういう布は。
頬がぽっと染まりそうな想いのこめられた布。
展示でぜひ見てみたいですね。

(コースターのお礼にとお送りしたコブナ草で、
今度はレモン色を染めましたと庄子さん。
工房からの風では、今年のレモンにちなんで、
レモンイエローのコースターも出品くださるそうですよ)

Q
色葉工房さんにとって「工房からの風」は、どのような風でしょうか?

A
春に選考通知を受け取った時、
私の心に吹いた風は 無色透明の風でした。

それから半年間、立ち止まって考えることも多かったのですが、
想像していたよりもずっと力強い風に背中を押されるようにして
なんとか制作の手を止めずに過ごすうちに、
ぽつりぽつりと温かい色が灯ってきたような感じです。

当日の二日間は、みんなの風が集まって
会場全体でどんなふうに響き合うのか、

とてもワクワクしています。

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Q
お名前、あるいは工房名についての由来、またはエピソードを教えてくださいますか?

A
庄子葉子と申します。
とても単純ですが、8月8日(葉っぱの日)生まれなので
葉子という名前になりました。

色葉工房(いろはこうぼう)という工房名も そこからきています。
もみじの葉が紅く染まる頃に始まった工房です。
紡ぐ 染める 織る
一枚の布ができるまでの行程を できるだけ自らの手で との想いも込めました。

葉子と名付けてくれた祖父は、
農業の傍ら 自ら育てたほうきの草でほうきを作っていました。
祖父が亡くなり30年が経ちますが、
祖父の作ったほうきは 今でも大切に使っています。
そのほうきを手にする時、
もしかしたら私が将来こういう仕事をするということを
祖父は知っていてこの名前をくれたのかもしれないと、
ふと そんなことを思ったりします。

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美しいお名前に、素敵なストーリーですね。

色葉工房さんがある仙台は、
8月8日が七夕まつりの最終日。
織姫と彦星の七夕。
今、こうして庄子さんが機織りをなさっているのも、
きっと自然な巡りあわせなのかもしれませんね。

そして、色葉工房さんが出店する場所は「おりひめ神社」!の脇。
正面の右手側の樹々に囲まれた空間です。

色葉工房さんのブログはこちらになります。
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written by sanae inagaki

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とりもと硝子店さん(ガラス)

今展では思いがけない再会が幾つかありました。
吹きガラスのとりもと硝子店、鳥本雄介さんもそのおひとり。

日本のスタジオガラスのパイオニアのおひとりで、
現在も活躍中の荒川尚也さん。
京都にあるその晴耕社ガラス工房で
長くスタッフとして働いていらっしゃいました。

2003年、第二回「工房からの風」に荒川尚也さんが出展くださったとき、
スタッフとして同行されていたと伺って驚きました。
まだ、「ニッケ鎮守の杜」や「手仕事の庭」がなくって、
コンクリの花壇だった時代!のことです。

荒川さんが廃校になった小学校のガラス戸を引き取って、
そのガラス面もゆらぐ建具を、インスタレーションのように展示くださったのでした。
その時、黙々と大変なワークをしてくださっていた鳥本さん。

その後、3年ほど前に京都の荒川さんの工房を私がお訪ねしたときにも、
お会いしていたとのこと。
鳥本さんはスタッフとして制作中でしたから、
私は認識できていなくって申し訳なかったのですが、
こうして、独立を果たされて、この場に作家としてやってきてくださったこと、
とてもとてもうれしかったのです。
(応募用紙にはそんなこと何も書いていらっしゃらなかったので、
後で伺ってびっくりしたのでした)

Q
とりもと硝子店さんは、「工房からの風」に、どのような作品をお持ちくださいますか?

A
グラスや皿、鉢などのテーブルウエア、ペンダントライト、
花入れといった生活の中で使う道具をメインに持っていきます。

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波紋の花器と名付けられた作品。
美しい吹きガラスならではのフォルムですね。

Q
とりもと硝子店さんにとって「工房からの風」は、どのような風でしょうか?

A
風船に手紙をつけて飛ばす時の願いや高揚感を、
まだ見ぬ土地の人に届けることが出来る風になりたいです。

14年間修業させていただいた親方から、
ガラスに関することはもちろん、日々の暮らし方、
ものの見方、話し方、生きていく力などの多くのことを学びました。

親方が修業していた時代のスピリッツも伝えて頂きました。
とてもわくわくしました。

先人たちから、言葉や行動で伝わってきた大切なことを消化し、
自分だけで持っているのではなく、
自分の言葉や行動で人に届けられる風でありたいと思っています。

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蓮葉盆という名の器。
茶菓から食卓、インテリアのしつらいにも多様したくなる透明のガラス。

前回ご紹介した石渡さんがミーティングで印象的だったとお伝えしましたが、
鳥本さんもその熱心さが印象的でした。
瞬きもせず一心に私や風人さんの話を聞いてくださっているのです。
一言漏らさず聴こう!という感じで。

石渡さんの頷き続ける「動」と、
鳥本さんの不動の「静」。
どちらからも伝わってくる真剣さに、
こちらも背筋が伸びたのでした。

Q
鳥本さんのお名前、あるいは工房名についての由来、
またはエピソードを教えてくださいますか?

A
とりもと硝子店。
鳥本と漢字で書くと、
「しまもと」と間違えられることが多いので平仮名表記にしました。

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すっごくよくわかりました!

案内状には鳥本さんの作品も掲載しているのですが、
今年の果実、レモンを入れた素敵な瓶があるのです。
それもこちらからもご覧いただきますね。
(こんな風に、レモンを漬けたい!)

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とりもと硝子店さんの出展場所はニッケ鎮守の杜に入って中央の下草の中。
お隣はRenさんです。

硝子の調合から行い、しっかりとした技術をもった鳥本さんのガラス作品。
そのものづくりは先細ることなく、
今展を機にますます豊かになっていくと期待しています。

written by sanae inagaki

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石渡磨美さん(陶芸)

「工房からの風」では、開催前に出展者が何度か集まります。
日本全国からの出展作家の方々ですので、
きっとタイヘンなことと思うのですが、
多くの方が万障繰り合わせて、集まって来られます。

この機会が、今後のものづくりでの人の輪の核にもなったり、
あるいは、ものづくりの考えへの大切なかけらと
される方も多いように思います。

そのミーティングでは、
役割上、皆さんを前に私がお話しをする時間が多いのですが、
幾人かの熱心な聞き手の方がいらっしゃいます。
あ、きっと、皆さん熱心なのだと思うのですが、
熱心が印象的な!方が毎年数人いらっしゃるのです。

今年のとびきり印象的だったのが、石渡磨美さん。
陶芸作家です。

Q
石渡さんは「工房からの風」にどのような作品を出品くださいますか?

A
暮らしのうつわを持って行きます。
ポットやマグ、耐熱皿、深めのカレー皿など、
私自身が日々の暮らしの中で重宝しているうつわ、
出番の多い「いつものうつわ」です。

土ものは、使い続ける中で色が深みを増したり、
貫入(細かいヒビ)に茶渋等が染み込んだりと、
変化を楽しむ良さがあります。

当日は実際に使用して変化したうつわを展示いたしますので、
是非ご覧いただければ嬉しいです。

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出展が決まってからの約半年。
ぐーんと作品が伸びていかれる方が毎年現れます。
石渡さんもそのような中のおひとり。
秋の実りに向かって、お名前の如く、腕を磨いて制作に励まれていることを
ひしひしと感じていました。

熱心さが印象的、というのは、私だけではなくて、
他の出席者の方々からも伺っています。
というのも、目を輝かせて、うんうんとずっと頷いていらっしゃるのです。
まるで、その時間の行き交っている言葉、想いを
一粒逃さぬように受け止めようとしているかのようで。

この半年間の工房での一人の時間、
吸い込んだ一粒一粒を反芻しながら、
きっと濃密に過ごされたことと思います。

そして、個人ミーティングで晩春に話されていたことが、
じわじわ実際のかたちとなって現れてきているのですね。

ホームページに、二十四節気七十二候ごとその折々の言葉と
それに合わせて制作の風景、作品を掲載することを
続けている磨美さん。
その頁を追ってみると、皆さんにもその進化成長の一端、
伝わるのではないでしょうか。

Q
石渡さんにとって「工房からの風」は、どのような風ですか?

A
心の深いところで常に吹き続けている風です。
2008年にはじめて「工房からの風」を訪れた時から、
いつかは私も作り手としてあの場所に立ちたいと憧れて、
ずっと目標だった「工房からの風」。

やがてその思いは風となり、
心に灯った火に絶えず新鮮な空気を送り続けてくれました。
そして今年は大きく背中を押してくれた風。
そんな優しくも力強い風です。

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この回答をくださったメールの末尾に、こんな言葉が添えられてありました。

「秋の空気が日に日に濃くなってきて
 毎日制作に追われながらドキドキしております。
 29日の祈願祭には残念ながら伺えませんが
 当日同時刻に工房の窯の前の神棚に手を合わせて
 吉祥寺より一緒に祈願します!」

そう、今日29日に「おりひめ神社」では、
宮司さんにお越しいただいて「祈願祭」を行いました。
「工房からの風」の安全祈願、晴天祈願、千客万来の祈願。

今日、天気予報はあいにくの雨。
念のために参拝の場にはテントも立ててという祈願祭となりましたが、
雨は降ることなく、むしろ祈願祭中には眩しい光が一帯に射し込んで、
なんとも晴れやかなひとときをいただくことができました。

石渡さんの祈り、届きましたよ!
ありがとうございます。

Q
石渡磨美さんのお名前の由来をおきかせくださいますか?

A
母の愛する故郷・神戸の須磨海岸から「磨」の字を頂いて、
己を美しく磨くという意味と合わせて「磨美」と名付けたそうです。

普段から気に留めているわけではないのですが、
時折ふと「自分は名前の通りに歩めているだろうか。」
と思うことがあります。
ゆっくりでも少しずつでも日々自分を磨いて、
美しいものを生み出せるようになりたいなと思います。

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己を美しく磨き、美しいものを磨きだす。

磨美さん、お名前の通りに歩んでいらっしゃいますね。

石渡磨美さんの出展場所は、ニッケ鎮守の杜、
「手仕事の庭」花壇の奥。
楮やぶどう、そして初めて植えたゴボウなどが育っている花壇のほとりです。

サイトはこちらとなっています。
→ click

written by sanae inagaki

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竹村聡子さん(陶芸)

出展が決まってからの約半年。
50人(組)いらっしゃるので、ディレクターとのやりとりも50通りあります。
内容的にかなり濃いやりとりになる場合もあれば、
さっぱり事務的に終始する場合もあります。

もっとも、今「工房からの風」で
ご一緒いただいている風人さんたちに関していえば、
決して初出展時の準備期間に濃いやり取りがあったか、
といえば、案外そうでなかった場合もあります。
菅原さんや長野さんは、個人ミーティングも叶いませんでしたし、
出展以降にじんわり響きあって、今日を得たような気もします。

なので、この半年で私がおひとりおひとりの作家の方を
わかったようにご紹介などできませんし、
わかったふりをしてご紹介することも戒めています。
作家はすべてすばらしい!みたいなこと、私は書けない(笑)ですし。

それでも、佳き予感がすることは、期待をもって、皆様と一緒に感じたり、
見つけたりしていきたいなぁと思います。
そんな佳き予感の水先案内としてこのブログ「director’s voice」を
お読みいただけましたら幸いです。

と、前振りが長くなってスミマセン!
佳き予感の作家、陶芸の竹村聡子さんからのメッセージをご紹介いたします。

Q
竹村さんは「工房からの風」に、どのような作品をお持ちくださいますか?

A
主に銀彩で装飾を施した器(animate series)を出品します。

以前人形アニメーションに関わる仕事をしていて、
その中で「アニメート」という言葉には「命を吹き込む」
という意味があることを知って衝撃を受けました。

手間暇かけて人形を少しずつ動かし、
まるで生きているかのように表現ができる
プロのアニメーターのきめ細やかな手仕事に物凄く感動しました。

私もアニメートに近い感覚を器で表現できないかなと考えていた時に、
家で飼っていた鶏をなんとなく器に銀で描いてみました。

その鶏の絵は日に日に酸化して色合いが変化していき、
まるで人間みたいに年をとっているようで、
自分なりの「アニメート」がほんの少しできた気がしました。

日々の生活の中で人と共に年を重ねていく器を
「animate series(アニメートシリーズ)」と名付けました。

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竹村さんの作品を初めて拝見した時、
とりとけものの絵にとても差があることを感じました。

鳥たちはそこで呼吸をしているかのように瑞々しいのに、
けものたち(足のあるもの)のどこか偶とした表情。
アンバランスをプリミティブ、かわいい、と言えばそうなのかもしれませんが、
鳥たちの美しさと比べると、その違いが不思議だったのです。

聞けば、鳥はすいすい伸びやかに描けるのだけれど、
動物(たとえば馬とか)は、苦手意識があってと。

まあ、なんて正直なひとだろう、と思いました。
そして、苦手克服なんかしなくっていいから!
得意なものを伸び伸びどんどん描きましょうよ!!
と、わははと笑いあって語らいました。

その後、竹村さんの描く鳥の絵は、ますます自在となって、
まさに飛び立たんばかりの表情なのです。

(そして、いつの日にか、動物たちの絵も、
自然に伸びやかに美しく描ける日が巡ってくるような気がします。
なんでも、「ネギ」という名の「ヤギ」を可愛がっているそうですから(笑))

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おまけ画像

Q
竹村さんにとって「工房からの風」は、どのような風でしょうか?

A
日本の伝統芸能をベースとした
人形アニメーション作品に
触れる機会が多く、
個人的に勉強していた頃に、

能の大成者の世阿弥の言葉の中で「風」のつく用語がいくつもあり興味がありました。

その中の「花風(かふう)」という言葉は
芸の成果を「花」、それに至るまでの様々な工夫と心構えを「風」と例えてあり、
「工房からの風」への出展が決まってからの半年間は
まさにその「風」を常に自分の中で感じる尊い日々でした。

その成果としての「花」が咲くかどうかはわかりませんが、
今後も自分の中で風を意識し続け、いつか
「閑花風(かんかふう)-静かで気品のある芸風」な器を作れるようになりたいです。

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芸の成果を「花」、それに至るまでの様々な工夫と心構えを「風」

「工房からの風」は、まさにそのような風でありたいと思います。
背筋が伸びるような美しいメッセージを、竹村さん、ありがとうございます。

Q
竹村さんのお名前、あるいは工房名についての由来、
またはエピソードを教えてくださいますか?

A
祖父がつけてくれた「聡子」という自分の名前が好きなので本名で活動しています。

祖父は若い頃航海士で船に乗って世界中を巡っていました。
デジタルではない時代の航海は日中は太陽の方角、
夜は星の位置を見て舵をとっていたそうで、星にとても詳しかったのを覚えています。

「工房からの風」のミーティングの中で
「作り手は自分で舵をとって進んでいかなければならない」という話を聞いて、
この先どんな暗闇があっても、祖父からもらった名前と共に
自力で星を見つけ出し舵を取って進んでいこうと思いました。

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おじいさまからいただいたという聡子さんというお名前、とても素敵ですね。
そして、竹村さんのどのメッセージからも、このブログの質問に
とても丁寧に向かい合ってくださったことが感じられて、ありがたく思っています。

まじめてとっても面白い(まあ、褒め言葉として、かなーりヘンな(笑))竹村さん。
命を吹き込む器づくりを目指して作られた作品は、
おりひめ神社隣、神宮社の脇に並びます。

竹村聡子さんのサイトはこちらになります。
→ click

written by sanae inagaki

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VANILLAさん(洋服)

おりひめ神社周りの出展作家をしばらく続けてご紹介していきましょう。
VANILLAさん。
洋服を仕立てるご夫婦の作家です。

Q
VANILLAさんは「工房からの風」に、どのような作品をお持ちくださいますか?

A
綿、麻素材のお洋服。
VANILLA定番の丸襟ブラウスやシンプルなシャツ、プルオーバー。
これからの季節に重宝する羽織にも使えるワンピースも作っています。

ボトムスは男女兼用にも着られるパンツや、
リネンたっぷりのフレアスカートなど
どれもシンプルで着まわしの利くお洋服です。

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VANILLAさんの洋服と出会ったとき、
「ああ、こういう洋服を作る人を探していた!」
と出会いに感謝しました。

着心地の良い今の気分をとらえたデザイン。
特性がよくとらえられた生地の選択。
そして、長きにわたる愛着を支える確かな縫製。

生地が手織りだとか、草木染だとかということだけが
手仕事の基準ではないと思っています。
素材を選ぶ目、デザイン力、それをかたちにする技術。

VANILLAさんの服は一見「特殊」には見えませんけれど、
「特殊」な印象が手仕事の意味ではないのですもの。
ハレの日ばかりではなく、日常にも着たい服。
それが着るほどに、ああ、縫製の技術が高い服っていいなぁ。
と、うれしい気持ちに包まれます。

一番端的にそのことが表れているのが丸襟だと思います。
このふっくらとした絶妙なカーブ。
VANILLAさんの丸襟と出会ってから、
他の丸襟では満足できなくなってしまいました(笑)。
というか、別物、なのだと。
ぜひ、会場でその立体的な美しさ、触れてみてくださいね。

Q
VANILLAさんにとって「工房からの風」は、どのような風でしょうか?

A
そっと背中を押してくれるあたたかい風。
とてもやさしくて心地よいです。

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高野さんご夫婦とは、この半年の間に
何度も服づくりのことを介して言葉を交わしました。
その想いは、日ごろ私が仕事で出会っている陶芸や、
木工、彫金の作家と同じ質のものでしたので、
会話に何の違和もありませんでした。
きっと「工房からの風」の中で、自然に溶け込み、
新鮮な風をそよがせてくださいますね。

Q
VANILLAさんのお名前、あるいは工房名についての由来、
またはエピソードを教えてくださいますか?

A
「VANILLA」と言う名前は、
服飾専門学校へ通っていた頃から密かに考えていた名前でした。

いつかお洋服を世に出せる時が来たら...と。

VANILLAとは、アイスクリームのバニラ味のことです。
バニラって普通だけど特別な響きが私にはありまして、
色んな味のアイスがあって色々食べてみたけど、
やっぱりバニラが一番おいしい、なんだかんだ食べたくなる、
やっぱりバニラだよねって。

私たちのお洋服もそんな風に思って手にとってもらえたら嬉しいな...と思っています。
「定番」とか「普通」とかそういう意味合いも含めてのVANILLA、です。

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「やっぱり、バニラだよね」

とっても素敵なネーミングですね。
作品ポリシー、コンセプトとぴったり!
飽きがこない素材の良さ。

そんなVANILLAさんの服は、おりひめ神社脇。
革の谷田貝陵子さんと陶芸の瀬川辰馬さんの間に出展します。

VANILLAさんのサイトはこちらになります。
→ click

written by sanae inagaki

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オオタ硝子研究室さん

「風の音」寄稿組!?続いてはオオタ硝子研究室さん。
キルンガラスの太田良子さんです。
(キルンガラス
→ 冷えたガラスを組み合わて電気炉に入れ、加熱することで形作る手法)
谷田貝さんと同じく、りょうこさんとお呼びします。

Q
オオタ硝子研究室さんは、
「工房からの風」に、どのような作品をお持ちくださいますか?


キルンワーク技法で制作した作品を中心にもっていきます。
石膏型を彫って模様を施したうつわやミニオブジェ、
吹きガラスと組み合わせた作品など
様々な表情を楽しんでいただけるような
そんな展示を考えております。

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太田さんに「風の音」への寄稿をお願いしたことの理由のひとつが、
以前は車の仕事をしていた、と伺ったことでした。
現在のようなコンピューター制御前のアナログの車。
ご自身も初代サニー(66年式)に自ら手を入れながら乗っていた、
というお話しがとっても愉快で爽やかで、ああこの人の作るものを見てみたい。
そして、車からガラスに向かわれた話をぜひ書いてもらいたい、と思ったのでした。

Q
オオタ硝子研究室さんにとって「工房からの風」は、どのような風でしょうか?


楽しい風
向かい風
風向きが変わる予感の風

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向かい風、追い風。
この質問にそう答える方は毎年多いのですが、
「風向きが変わる予感の風」というような意味で返してくださった方が、
今回の出展者には多かったです。

「工房からの風」は、所謂「ポットデ」の方はいないので、
一定の仕事のあと、次の扉を開けたい方が多いのでしょう。
そして、「工房からの風」を契機に、
風向きが変わった作家が多くいらっしゃるので、
それにならおうという希望を抱いた方が多いのでしょうか。

今、充実の仕事をしている「風向きが変わった」作家にお話しをきくと、
皆さん、一様におっしゃいます、「じわじわ後から変化がやってきた」と。
気づくと違うステージにあがっていた、
そんな風にとらえている方が多いようです。

二日間が終わった月曜日に!
風向きの変化を感じられなくっていいのだと思います。
でも、後になってみると、あの二日間から、じんわり変わっていった・・・
そんな確かで充実の時間を、今年の「工房からの風」でも作り出したいですね。

Q
オオタ硝子研究室さんのお名前、あるいは工房名についての由来、
またはエピソードを教えてくださいますか?


あらためて「オオタ硝子研究室」と申します。
よく聞かれますが1人研究室です。
日々あれやこれやと思いついたことなどを
コツコツ研究そして制作しています。
イメージしたことと違った結果になったとしても
またそれが発見や次のアイディアにつながる楽しさがあります。

昔から白衣に憧れていて
着てみたかったというのが
正直1番の理由だったりします。
当日は白衣を着てお待ちしてます!

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ぷぷっ。
ちょっとヘンですよね(笑

今回、太田さんのようにまじめにヘン(シツレイ!!でも、褒め言葉です)な方が数人います。
あ、まだ気づいていないだけで、もっといらっしゃるかもですが。

白衣を着て!太田さんが立っているのは、おりひめ神社と稲荷社の間の空間。
昨年まではテントがなかったところなのですが、
今年はオオタ硝子研究室さんに。
玻璃の宝物、みたいな感じで構成してもらおう、と思っていましたが、
まさか白衣のテントになろうとは!

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written by sanae inagaki

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谷田貝陵子さん(革)

「風の音」(当日本部テントにて配布する小冊子)に寄稿いただいた作家、
続いては谷田貝陵子(やたがいりょうこ)さん。
革でバッグや小物をおひとりで制作しています。

Q
谷田貝さんは「工房からの風」に、どのような作品をお持ちくださいますか?

A
学生の頃友人へ作ったバッグ、
お客様からのオーダーで改めて気づけたその革の魅力など、
人や出来事が始まりとなり作った、バッグや小物を出品します。
10年来、素材もデザインも大好きなバッグを使っており、
それを超えて惚れ込めるものを作ることが一つの目標です。
そのタンナーの素材を今年の春にようやく手にする機会に恵まれ、
バッグやオサイフも作って持ってまいります。

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これが、そのバッグでしょうか。
谷田貝さんが愛用されたものを拝見しましたが、
実用的でとってもおしゃれなバッグでした。
使い範囲がうんと広やかな感じです。

Q
谷田貝さんにとって「工房からの風」は、どのような風でしょうか?

A
訪れる時は、季節のにおいがする風です。
出展する今年は、強い追い風、優しいそよ風と、変化しています。

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つい先日、9月の連休には「galleryらふと」で
ワークショップも開いてくださいました。
素敵な革のばね口ポーチを8名の方が制作されました。
「工房からの風」で、見かけられるかもしれませんね。

Q
谷田貝さんのお名前、あるいは工房名についての由来、
またはエピソードを教えてくださいますか?

A
10代の頃は四角ばかりの字面が好きではありませんでした。
山(谷)を下り、平地(田)を流れ、海(貝)に出る
そういうことにして、いまは好きな名前です。
循環のなかで、どうにもならない自然の動きも恩恵も受けていて、
手にしている革も、自分自身もその一部であることを出来るだけ内に留めて作っていたいです。

実は、そんな姓を受けてバリーシェルという名前で仕事をしています。
テキスト表記出来ないので表立たないのですが、
地形を象ったロゴマークも存在し、なかなか気に入っております。

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あ、これは、今年のモチーフ『レモン』で作ってくださったものでは!
日焼けさせて模様を漬けられたのかしら。

と、お名前のことでしたね。
谷田貝さんて、とても珍しい名字。
バリーシェルとは、谷田貝さんならではのブランド名ですね。

谷田貝さんがこのように大きく発表するのは初めてのこと。
ランナップもまだこれからでしょうし、
バリエーションも豊富ではないかと思います。
けれど、出来あがった作品には、
どれも今の作り手のベストの手わざとハートが込められたもの。
中途半端にかっこをつけずに、コツコツ納得できるものをお出しする、
そんなよき頑固者!が谷田貝さんの印象です。

今回の皆様からの反応が、きっとこの若い作り手を先に進ませてくれますね。
ぜひ、前向きなご意見、寄せて差し上げてください。

谷田貝さんの出展場所は、おりひめ神社の脇。
サイトはこちらになってます。
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written by sanae inagaki

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Renさん(金属)

おふたりめのご紹介はRenという工房名で活動をしている中根嶺さん。
金属の作家です。
若干26歳。
今展の最年少作家です。

Q
Renさんは「工房からの風」に、どのような作品をお持ちくださいますか?

A
鍛金という技法で作った、オブジェやアクセサリー、カトラリー、照明器具を持って行きます。
硬さと柔らかさを併せ持つ金属は、一打一打、一削一削に呼応し、手の動きを形として留めます。
今回は特にその「形」に意識をおいて制作しています。

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カトラリーや装身具、そして動物などのオブジェ。
金属ならではの素材感に、手ならではの仕事でかたちが生まれています。

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Q
Renさんにとって「工房からの風」は、どのような風でしょうか?

A
風は目には見えないですが、肌で感じその風に季節や人、
モノや事、場所の気配を感じます。

工房には「作ることが好き」の延長線にある、
その人が選んだ素材や技術があり、
それを生業とするための創意工夫や様々な思考、
努力、姿勢がモノへと変わる特別な場所だと思います。

そんな場所から吹き集まる風、「工房からの風」という空間。
五感を研ぎ澄ませて、たくさん吸い込みたい風です。

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このふたつは、私が京都のRenさんの工房をお訪ねしたときに撮影したもの。
金閣寺のほとりにアトリエ兼ショップを構えられています。
自らリノベーションした渾身の空間。
京都へ行かれる折には、ぜひお訪ねになってみてください。
(お休みなどはホームページでチェックくださいね)

Q
Renさんのお名前、あるいは工房名についての由来、またはエピソードを教えてくださいますか?

A
小っ恥ずかしながら名前そのままです。
本名を中根 嶺(ナカネ レン)と申します。
当て字なので本来レンと読まないのですが…
産まれた朝に山嶺が綺麗に見えたそうでこの漢字にしたそうです。
おかげで?登山も趣味の一つ。
山に登っていると無心になります。
そんな時に作りたいモノの良いアイディアが浮かんだりも。

独立して屋号をどうするか散々悩みました、けれどどれもしっくりこず
シンプルに、そして多くの人に読んで頂けるよう「Ren」としました。

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生まれた日の気象や出会った季節の恵みを名前にいただくって、
自然に祝福されているみたいで素敵ですね。

Renさんにご寄稿いただいた「風の音」の800字のタイトルは「手の温度」。
ものを作り、発表を始めたばかりの頃の少年との出会いを綴っていただきました。
こちらも、どうぞお楽しみに!
(当日、本部テントでご入手くださいね)

Renさんの出展場所は、ニッケ鎮守の杜に入って花壇の手前の下草の空間。
ガラスのとりもと硝子店さんがお隣です。

Renさんのサイトはこちらになります。
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written by sanae inagaki

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瀬川辰馬さん(陶芸)

今年の「工房からの風」まで、いよいよ3週間となりました。
今日から今年の出展作家のご紹介を始めていきますね。

ちょうど昨日、お目にかかった方から
「そろそろ作家紹介が始まるかしら?って、ブログを見に来ていました!」
と、うれしい言葉をかけていただきました。
(ありがとうございます)

この場は作家紹介ブログなのですけれど、
ただ単に私からの質問に対しての作家の答えを掲載する場合もあれば、
出展が決まってからの約半年、そのやりとりの軌跡のようなものを
垣間見ていただける場合もあります。

「工房からの風」への出展を通して、作家がどのようにご自身をみつめ、
どのように考え、手を動かし、形を作っていったのか。
結果だけではなくて、経過が人の営みには大切なんだなぁと、
「工房からの風」を続けながら、私も学ばせてもらっています。

そんなこんなも感じ取っていただきながら、
純粋に素敵な作品写真に喜んでいただいたり、
最後の質問にくすっとしていただいたり、、、、
50人(組)の出展者や、
ワークショップなどで関わってくださる20名の方々からの
メッセージをぜひこの3週間、お楽しみいただけたらと願っています。

どなたからご紹介しましょうか。
昨年と同様、「風の音」に文章を寄稿いただいている方から始めましょう。
(「風の音」は現在鋭意編集中!
当日、本部テントでご入手くださいね。
無料ですが、数に限りがありますのでお早めに!)

では、さっそくおひとり目を。
陶芸の瀬川辰馬さんです。

Q
瀬川さんは「工房からの風」に、どのような作品をお持ちくださいますか?

A
皿やボウル、花器などのうつわを200点ほど展示・販売する予定です。
うつわを制作するうえで強く心がけていることとしては、
それらが根源的には「命を抱き留める道具」であるという点です。

動物にしても、植物にしても、生きたままではそれを食卓に並べることはできず、
狩られ刈られることで初めてうつわの上に並び、それを握って人は生きていきます。
私は、食べるもののためだけにつくられたうつわを傲慢だと思いますし、
また食べられるもののためだけにつくられたうつわ
(そんなものがあるとすれば、ですが)を寂しいと感じます。

それを握るものの悦びのためにあるのと同時に、
それに抱きとめられるものへの祈りのためにあるような、
そんな大らかで静謐なうつわを紡ぎたいと願って、制作を続けています。

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瀬川さんの器はとても静かです。
でも無音ではなくて、清流のせせらぎや、しんしんと降り注ぐ雪の調べのような、
「ないようである」美しい必然の波長のような静かな器です。

もっともそれは、単なる自然物や自然現象から生まれてきたものではありませんから、
その器も人工物に違いありません。
それでも、無音ではなく美しい調べが感じられるのだとしたら、
そう奏でようという作り手の確かな意思があるのだと思います。
その意思自体の静かな深さが、器の姿になっているのでしょうか。

(私は大ぶりなオーバルと丸いお皿を愛用しています。
いつもの料理を盛っても、なんだか凛として、澄んだように心に映るので、
とても気に入っているのです。
今度撮影できたら、ここにもお載せしますね)

Q
瀬川さんにとって「工房からの風」は、どのような風でしょうか?

A
私が普段作業をしているアトリエは、
築年不詳の精肉店を改装した建物の一階にあります。

建設時の衛生面での配慮だったのか、
それとも歴代の入居者が改装していく過程でのことなのか、

アトリエには開閉のできる窓がひとつもなく、
空調は専らエアコンに頼っています。

建物の一面すべてがガラス張りになっているので、
光は気持ちよく入ってくるのですが。

風は、殆ど通らないアトリエです。

その風通しの悪いアトリエで、うつわという道具について、
随分と長いこと独りで考え、また手を動かしてきました。
今思えば、黙々と地面を掘り起こし、
余分な根を取り除いていくような時間でした。

そうして耕していた土の上に、この一年程で、
ぽつりぽつりと芽が出てくるようになったと感じています。

自分が理想とする、うつわという道具のはたらきが少しずつクリアになり、
またそれに具体的なかたちが伴い始めました。

そのような時期に、工房からの風にご縁を頂きました。

稲垣さん、風人さん、出展者の方々との対話の時間は、
私のアトリエに吹く新鮮な風そのものでした。
これまで黙々と独り培ってきたものを、風通しのよい場所に移し、
育むような半年間であったと感じています。
本当に、多くの恵みを頂きました。

当日は、この半年で少し背が伸びたその芽を、
来場者の方々にも気持ちよくお見せ出来ればと思っています。

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このメッセージを読みながら、
梅雨のある日、初めて降りた私鉄沿線の駅をさまよいながら、
瀬川さんの工房をお訪ねした日のことを思い出しました。

『随分と長いこと独りで考え、また手を動かしてきました。』

たしかにその工房には、深い思考と試行の時間がたゆたっていたように思い出します。
その後、幾度か風人さんたちも交えながら交わした言葉は、
ものづくりのことにとどまらず、藝術のこと、文学のこと、
もっといえば生きることについてまで広がる豊かな会話となりました。

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『新鮮な作り手たちは、時代の中で果実のように生まれてきます。』

「工房からの風」を始めた16年前から伝え続けてきたこのフレーズ。
今年出会った27歳の瀬川辰馬さんを、まさにその果実のように思っています。

想いを正確につかもうとすること。
それを正確に言葉にしようとすること。
そう、その正確であろうとする姿勢に、私も教わることがとても大きかったのです。

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慶応SFCで先端の学びを経たひとが、
東日本大震災を機に、陶芸の世界へと進み、
今手元にある確かな素材と手を用いて、
ものを生み出す世界への扉をひらく。

瀬川さんの陶芸は始まったばかり。
きっと、作品の姿はぐんぐん変化していくことでしょう。
それでも、今掴んでいる物種は、
すでに瀬川さんが求めているそのものなのだと思います。
あせらず、取り繕わず、その物種が実るべき方へと、
瀬川さんの時間が紡がれることを心より応援したいと思います。

2016年秋の日現在の瀬川辰馬さんの実りの姿、
その器がとても楽しみなのです。

Q
お名前、あるいは工房名についての由来、またはエピソードを教えてくださいますか?


辰年生まれに、父親の名前の「篤樹」から一字もらって、
元々は「龍樹」と名付けられる予定でした。

ですが、調べてみると「龍樹」というのは2世紀のインドに生まれた
大変立派な仏僧「ナーガルジュナ」の漢訳名だということで、
これではあまりに畏れ多いと判断した父親によってボツに。

最終的には龍を辰の字に代え、「篤樹」から馬の字をもらい、
「辰馬」と名付けられました。
父が辞書を引く習慣のあるひとで、本当によかった。

辞書を引く習慣、すばらしいですね。
きっと瀬川さんにもその習慣が引き継がれているような。。。

瀬川辰馬さんの出展場所は、おりひめ神社の奥。
studio fujinoさんが隣です。
瀬川さんのサイトはこちらになります。
→ click

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と、今年もおひとり目からかっとばしてしまいました。。。
director’s voice
これから怒涛のブログアップの日が続きます。

written by sanae inagaki